東山魁夷館は、980余点に及ぶコレクションは、《緑響く》《白馬の森》《夕静寂》などの本制作のほか、 初期の「ヨーロッパ風景」「中国風景」、連作「北欧風景」「京洛四季」「白い馬の見える風景」「大和春秋」 の習作・スケッチ、日展のための準備作、唐招提寺御影堂障壁画の試作など、画家の自然への感興と制作の全体像を 一望できる作品群を収蔵しています。
東山魁夷館は、980余点に及ぶコレクションは、《緑響く》《白馬の森》《夕静寂》などの本制作のほか、 初期の「ヨーロッパ風景」「中国風景」、連作「北欧風景」「京洛四季」「白い馬の見える風景」「大和春秋」 の習作・スケッチ、日展のための準備作、唐招提寺御影堂障壁画の試作など、画家の自然への感興と制作の全体像を 一望できる作品群を収蔵しています。
横浜に生まれ、神戸で少年時代を過ごした東山魁夷(1908-1999)は、東京美術学校1年生の夏休みに 木曽の御嶽山へ登り、初めて信州の自然と人に出会って以来、長野県に取材した風景画を数多く制作 しています。魁夷は、四季の変化が美しく、山や湖、川、渓谷と地形の変化に富んだ長野県を、「作品を 育ててくれた故郷」と呼ぶほど愛していました。緑豊かな信州の風景は東山魁夷にとって、創作のインスピレーションを与える場所でした。
志賀高原の晩秋を描いたものですが、取材地の具体的な場所は特定されていません。草 津へ行く途中、群馬から横手山を見たところではないか、という説もあります。
深沈とした青一色に暮れて、
山々は高く聳え、
谷深く一筋の滝が白く光る。
鳥の声も聞こえない。
『四季めぐりあい 秋』1995年
一頭の白い馬が緑の樹々に覆われた山裾の池畔に現れ、画面を右から左へと歩いて消え 去った―そんな空想が私の心のなかに浮かびました。私はその時、なんとなく第二楽章の旋律が響いているのを感じました。
おだやかで、ひかえ目がちな主題がまず、ピアノの独奏で奏でられ、深い底から立ち昇る嘆 きとも祈りとも感じられるオーケストラの調べが慰めるかのようにそれに答えます。白い馬 はピアノの旋律で、木々の繁る背景はオーケストラです。
『東山魁夷館所蔵作品集』1991年
昭和58年に開館された長野県県民文化会館の中ホールの緞帳の原画を県から依頼 された私は、どんな題材が良いかと、いろいろ考えました。そこで何か信州にゆかりの ある風景を描きたいと思いましたが、緞帳は高さに対してずいぶん横に長いプロポー ションですので、まず構図の上での制限があります。それで私は、長野県の人々に親し み深い風景の中でも清澄な山の湖がふさわしいのではないかと考えました。初夏の湖 の朝早い静かな情景を描きたい、との構想のもとにスケッチを取り出して眺めている うちに、私はここぞと思う一枚の風景が目に浮んできました。
色彩は青を主調にし、白樺などの新鮮な感じの緑と背後の杉の濃い緑を対照させて 見たらと考えました。そしてそれらの木立が、そのままの姿で水に映っている構図にし て緞帳の原画となったのです。
『信州讃歌』1995年
これは何処の風景と云うものではない。そして誰も知らない場所で、実は私も行った ことが無い。つまり私が夢の中で見た風景である。
私は今迄ずいぶん多くの国々を旅し、写生をしてきた。しかし、或る晩に見た夢の中 の、この風景がなぜか忘れられない。たぶん、もう旅に出ることは無理な我が身に は、ここが最後の憩いの場になるのではとの感を胸に秘めながら筆を進めている。
(東山魁夷未発表原稿)